見えにくい虹。

2003/06/03up




「アンドレ、お願いっ
 絶対誰にも使わないで!!」

馬上のアンドレが訝しげに振り返った。
煙草のせいで頭の中にもやがかかったようだ。
瞼が重くて無理に開けようとすると涙が流れた。
でもこの涙は違う。恥ずかしさからだ。
愚かな自分の身勝手をこの人にさらしてしまっている事への。

アンドレは馬から降りて
足下が覚束ないあたしの腕を支えながら
困ったような、嬉しいような不思議な表情を造った。

「あたし莫迦だからほんとに、、、、
 一緒に死んであげなきゃって思ったの。」

急に意識が遠のき始めた。
酒と一緒にあの煙草を吸ったあとで走ったりしたせいだ。

「………………」

「お願い、返して」

「君は莫迦じゃないよ」

目をあける事が出来なくなってその場にくず折れた。

「少なくとも俺よりは、、、、」

意識が途絶える寸前に覚えてるのはアンドレのその言葉だけで
気がつくとあたしは自分の部屋の寝台に横になっていた。
窓から朝の光が部屋の中に満ちている。
夕べはどうやってここに帰ってきたんだろう?
あれは夢じゃない。
だって、アンドレにもらったお金が
寝台のわきのテーブルにそのまま置かれているのだから。

床に敷物の上でまるくなって寝ている男に気が付いた。
夕べアンドレにやられて 確か、頭から地面に突っ伏していた
借金取りの若い方の用心棒だ。
見るとまだ顔は、痣をつくって少し腫れ上がっている。

…‥…‥…‥…‥…‥

だめだ、本当に思い出せない。
「う、、、、ん。」
そうこうすると男が起き出した。
頭を抱えて人さし指でこめかみをおさえるあたしと目が合う。
にっこりと笑ってからあたしに向かって何かを言いかける。
「ああ、、、いてて、、、」
そうして顔の怪我を 思い出したように痛がった。

「おはよ、、、。
 大丈夫?でもないわよね。」
あたしは水差しからコップに水をそそぐと
その若い用心棒に手渡した。
「ね。なんでここに居るの?」

「いちち、、、。
 覚えてないだろうな、きのう
 あの後引き返したら、、、黒い髪の衛兵が
 すごく困ってて、、、」
そうしてアンドレと一緒にこの部屋まであたしの事を送ってくれたのらしい。
「なんで?
 あんたの仲間の男はどーしたのよ?
 あっちの方がよっぽど心配じゃない。
 大体なんで引き返してきたの?」
昨日同じようにアンドレに顎を砕かれて恐らくこの男の2倍は
顔が腫れているであろう仲間の事を思い出して言った。
「それは、、、」

口籠る男にあたしは溜息をついた。
「まあ、いいわ。
 それ飲んだら帰ってね。」
「‥‥あの煙草はもうやらない方がいいよ。
 どうやって手に入れたかしらないけど」
「あんたに関係ないでしょ?」
あたしは振り向きざまに言い放った。
なんだか無性に腹がたって思うより先に言葉が口をついたが
男はやたら真面目な顔であたしを見返してきた。
なんでこの男がアンドレと同じ事を言うんだろう、、、。

「行くよ。だけど奴が帰る所はあんたんとこしか
 ないから、また来る。」
「来なくていい!」
閉ざされたドアにあたしの声が跳ね返る。
ムキになって、勢いよくドアを開けると
用心棒の後ろ姿はもう小さくなっていた。

「もう、
 帰って来なくていいの、、、」あんな奴。
忘れたいのに周りが忘れさせてくれないらしい。

「君は莫迦じゃないよ
 少なくとも俺よりは、、、、」

あたしが莫迦じゃないのだとしたら
アンドレはあたしより愚かだと言いたかったのかしら。
もしかして本当にあの薬を使うつもり?
彼が残した言葉の意味を考えるのがこわかった。

まるで朝の光が一瞬で黄昏れるようなそんな気がしたから。



FIN




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その後のナタリーです、、、。
調子こいて書いてしまいました〜。
用心棒の名前、考えなくてもいけてるなら〜
これでいいか。。。(笑)








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