言葉の代わりに。

2003-09-08up





「今日も召し上がるんでございますか?」
地下の貯蔵庫からワインを持って上がって来ると
ばあやが渋い顔でわたしを睨んだ。
繰り言をかわして自室に入ると一息ついてワインの栓を開けた。

いくら飲んでも酔えない。
いや、身体の方は酔ってはいるんだろうな…。
だけど気持ちまでが酔えないんだ。
仕事も忙しい。政情も不安なこの頃にふって湧いたわたしの
結婚話も、今日終った。
というか、断わりに行くしかなかったのだ。
舞踏会をめちゃめちゃにしても晩餐で無口になっても
ぜんぜん気にしていないあの男には
まあその、ちゃんと断わりに行くしかなかった。

「彼を愛しているのですか?」

苛立つ。
今の気持ちを端的に言うとこれだな。
考えたくないんだ。
だけど、考えないようにしようとするのは
ずっとその事を思い続けてるのと同じ事で…。
苛立つんだ。まるで判らないから、考えられないから?
違う、判っている。
愛しているかだと?気付いてしまっただけだ。


ラベルなんてまるで見てなかったが
今日のワインは昨日のより年代が古いようだ。
口の中で香りがずっと残っている。なんだか瞼が重い。

塞がりかけた視界の端で暖炉の火が弱々しく燃えていた。
もう消えそうだな……。
このまま眠ってしまったら朝には風邪をひいてるかも知れない。
そうすると勤務に響くから
身体をおこして寝台に行かないと。
ああ、だけどめんどくさい。

アンドレ、すまんがわたしを……
「アンドレ……」

呟いた瞬間、自分の声に驚いて目を開けた。
反射的に身体をおこすと目の前のアンドレの顎に額をぶつけそうになる。
向こうがまた反射的に顔をひいてくれたので
わたし達は痛い思いをせずにすんだ。

「起きてたのか。」
「なんだ…おまえ…」なんで目の前に居るんだ?
わたしはあまりはっきりしない頭を抱えて
なんだか言い知れない恥ずかしさから顔を上げられずにいた。
今、なぜ彼の名を言ってしまったんだ?
「なんだじゃないぞ。
 下でおばあちゃんがこぼしてた。
 2日続けてワインを持って部屋に引っ込んでったってな。」
「ああ…」
「…オスカル?」
アンドレの小言は続いてたがわたしはなんだか
可笑しくなってきて目をこすりながら声を立てずに笑っていた。
「寝るんなら、ちゃんと奥で休んだ方が…」

顔をもう一度上げて彼を見ると形の良い唇が促すようにわたしの名を呼んだ。
「オスカル…」
そういえば今日帰って来てから初めてアンドレの顔を見る。
どこかへ行ってたのか…また。

止まってるようなゆっくりした動作で
自分の腕がアンドレの首に絡みついた。

「なんの真似だ?」
アンドレの固い動揺が伝わってくる。
囁くような声でわたしの耳もとで呟いた。
その声までもがなんだか懐かしく胸に顔をうずめて息を吸い込むと
アンドレの身体からは消毒液の匂いがした。
馬車が襲撃された時の怪我の_。
「なんだろうな…」
そのままそっと自分の腕に力を込める。離れられないように。
何かを守るように。
アンドレの手が添えられたわたしの背中がすぐに熱くなる。

愛しているかだと?ただ気付いてしまっただけなんだ。
自分にとっての掛替えのないこの存在に。
いつかこの気持ちを言葉にしておまえに伝えられる日が来るんだろうか。
それはまだ判らない。だけど
言わなくても判ってるだろうなんてずるい事は言わないさ。

そう、たぶん。



FIN



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初めてのオスカルさま話を書いてしまいました、、、。
すいません、すいません。どきどきのあまあまが書きたかったんです。
でもあんまりしないです〜(泣)
最後まで読んで頂いてありがとうございました。











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