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異聞

2004-10-09up



星の往くさき






「マコト!」
彼を呼ぶ幼い声が聞こえた気がして
暗く蒼い海水の中で彼は三度、目を開けた。



僕が生まれるずっと前に初めて人間が地球以外の星に降り立った。
今から160年も昔の事だ。宇宙開発の歴史の一番最初に
僕らはその事を習う。ワークロボットや
コミュニケーションロボットの開発が進んだのも
その頃からだった。ペットの動物と同じくらい勇敢で
人間以上の力を持つロボットを子供達は面白がってすぐに懐いてしまう。
だから子守りのロボットなんてのも開発されていった。
やがて火星に民間のコロニーが出来て人々は移住を開始し始めた。
だけど、あんな火星や衛生にほんとに人間が住めるんだろうか。
ほんとに住んでる人には怒られそうだけど
地球じゃないって言うだけで、自分じゃ無くなるみたいな
そんな気はしないんだろうか。

その朝母さんが焼いてくれた厚いトーストを齧ると、
いつの間にか新聞を持った父さんがテレビの前に立って音量をあげる。
サラダを持ってきた母さんはテレビと父さんとを交互に見て、
首を伸ばしてテレビを見ようとしてる僕に早く食べなさいと言った。
「いいんだ、自主トレは自由参加だから少し遅れても」
「夏休みだからって自転車で学校に行くにはダメだからね」
母さんの小言に図星をつかれて僕は思わず頬を膨らませた。

テレビでは軌道を外れていた惑星探査機が
大平洋に墜ちていくリアルな映像が繰り返し放映されている。
「すげ…流れ星みたいだ…」「ん、今朝の3時頃だったらしい」
こちらを見ないで父さんが答える。
摩擦で真っ赤になって墜ちていくタンサキは衛生からの
映像では小惑星そのものに見えたのだ。
あんなに真っ赤で-----。
「中に居る人は熱くない?」
「さあ…?」
僕の冗談に父さんは優しい顔で振り向いてから頭をぐしゃぐしゃに撫でてきた。
そしていつものように洗面台に向かった。とても上機嫌で。
「敦史、早く食べないと20分よ?」
「ねえ、父さん嬉しそうだったね」



下り坂でペダルから足を離して一気に自転車で風を切って走った。
夏休みだから他に生徒は誰も歩いてない、
自主トレには案の定遅れていた。
だからほんの少し、サボりたい気がしてきた。
途中のカーブからは遠く港の広大な土地に赤茶けたコンテナ−群が見える。
手前の湾に添って停泊している船の白い壁が朝日に反射して眩しいくらいだ。
「おーー、敦史ーーっ、小川敦史くぅーーんっ」
後ろから僕の名を呼びながらえらい勢いで駆けてくるのは
同じクラスの八木の奴だった。「乗せてくれーー!」
あいつも遅れたらしい。
「メェエ〜」「てめっ…待てェ」「おわあっ!」
笑いながら、無理ヤリ後ろに飛び乗ってきたので
僕らはバランスを崩してあやうくガードレールに擦るところだった。

「知ってるか?今朝のニュースでやってたタンサキ
 船会社の倉庫にとりあえず納めんだって
 見ようと思ったら見れるらしいぜ」
後ろから遠くに見える赤茶けたコンテナー群を
僕の肩越しに指差して八木が言った。
「へえ」
「うちの親が、昔、民間機が墜ちた時
 同じ場所に納めたんだって言ってた。」
「それたぶん、うちの親父が乗ってたっていうやつだ。」
「…マジ?」「マジ。」

そうなのだ。父さんは子供の頃、民間機に乗ったことがあるのらしい。
不幸にも初乗りで初事故に巻き込まれた。僕の家で
宇宙開発の話をあまりしないのもロボットを買わないのも
たぶんそのへんに原因があるんだろうと思っていた。

宇宙ステーションから飛び立った民間機が
地球の大気圏に突入する直前に失墜して−。
軌道を大幅に反れて反れて、
それでも太平洋に墜ちたのは幸運と言うしかなかった。

僕らが生まれる前の不幸な事故だけど、父さんは
それで幼い弟を失ったらしい。というか、
子守りのロボット共々、未だに行方不明のままなのだそうだ。
不思議な事は、行方不明になったのはその幼い叔父だけで
あとの乗員は怪我らしい怪我もなくみな無事だったのだということ。

あの民間機と同じ場所に夕べのタンサキが…
その事がなんだか偶然には思えなかった。

「見に行かねエ?」黙ってる僕に八木が提案した。
「港までチャリンコでっ?」
「行ける行けるっ」
「お前、おりろっ」「はははは」
笑いながら目的地だった中学校をそのまま通り過ぎる。
途中で僕の方が後ろに乗り換えたりして、
結局港には約40分くらいかけて辿り着いた。
すでにウワサを聞いて集まっている(僕たちのような)ヤジ馬や
空を旋回している取材のヘリや、局の車に辺りはものすごく混乱していた。
交通整理の警官に警察車両も何台か止まっていて
とてもじゃないけど、近付けそうもない。
回りを見渡すととっても見覚えのある後ろ姿を見つけた。
絶対、父さんの背中だった。
「敦史?」「メエ〜ェ」「ヤギ語をヤメロ」
聞いてくる八木に答えながら突っ込まれながら笑いながら
見覚えのある背中を叩いた。「とうさん!」
「おお」僕を見て驚いた顔をしたあと、父さんは八木に
「こんにちは」と言った。
「お前たちも見にきたのか、しょうがない奴らだな」
「へへ。そうなんだけど、これじゃ見れそうも無いね…」
人と人の間から、コンテナ−の赤い壁が見えるだけだった。
「八木の親父さんが言ってたんだって。
 父さんが乗ってた民間機もここに納められたんでしょ?」
「ああ。」父さんはその事も知ってるようで
八木に笑いかけたあと、実は、と話し始めた。
「とうさんも子供だったからあまり事故の事は覚えてない…
 だけど弟のアツシが目の前で消えたことはよく覚えているんだ。」
僕は父さんの横顔を見上げた。「消えた…?」
「不思議な事もあるもんだな。
 だけど、マコトと一緒にいつか帰ってくる気がして
 空から何か降ってくると見にきてしまうんだ。」
「マコトって?」
「その時一緒に居なくなったロボットだよ、
 父さんがそう名付けたんだ」





「あの星はどこへ行ったんだ…?」

墨を撒いたような空に薄明るい光の柱が一瞬天にのびて
砂浜に打ち寄せる波と海風に揺らいだかのごとくかき消えた。
僅かに遅れてから波動とも風ともつかない空間そのものが
その光の柱を中心に四散した。そこに人が居たら地震かと
思って慌ててどこか捕まる場所を探すだろう。
辺りはまた漆黒の闇にのまれ波音だけが夜の静寂に響く。

夜明けまでは遠い。ここは海辺の松林。
海風に晒されて大地と平行に伸びる針葉樹の群れ。

光の柱が立った山の中腹から重いものが海めがけて滑り落ちていく。
人のようであった。
暗闇のなか眠りを妨げられた鹿が頭をもたげ光る眼で警戒していた。

土埃にまみれた彼が、一度眼をあける。自分がどこに落ちたのか
その所在を確かめようとしたが見るものが何も無い暗黒のうえに
衝撃で朦朧としていてその眼は再び閉じられた。

次に目覚めたのは夜明けだった。
濃い霧の中を辺りを見渡しながら
ゆっくり身体を起こし、軽く頭を振った。
自分に何が起こったんだろう。ここはどこだ?
地球が見えたと思ったその後の事は何も覚えてはいなかった。
「どこだ…?」彼は呟きながら靄を祓うように
両手を動かして立ち上がると
そこが切り立った崖の松の木の根元だと判った。

「!!」
足下の柔らかい土が崩れて滑り尻餅を着いた。
かろうじて立ち上がり、そのまま崖から離れようとして
岩肌を打つ波の音に、彼は何かを求めて身体を乗り出した。
手をかけた松の木が大きく撓(しな)るがかまいもせず
思いきり身体をのばし遥か下の海に向かって叫んだ。

「アツシーーー!!」

そう、彼はひとりではなかったのだ。
荒波が呼応するかのように打ち寄せる。
彼は辺りを見渡しながら
人が落ちては恐らくは助からないであろう海に向かって
何度も見失った連れの名を叫んでいた。

やがて絶望感に打拉がれ、彼は叫ぶのを止める。
手で唇の震えを抑えて嗚咽を堪え、ふと自分の背後の
山肌を見上げた。下草の鬱蒼とした針葉樹の群れが全部自分に向いている。
「上…?」それは彼にとっての唯一の希望であった。
自分だけが山肌を滑り落ちてきたのだとしたなら
その群れのなかを探せば良いのか。
その時手をかけていた木の枝に亀裂が生じた。
不安定な体勢のままの自分の脇から足元へと
大きく枝が撓り折れていくのを彼は呆然と眺めていた。
枝を持ったまま上体から崩れて均衡を保てない。
当然体勢を立て直す事は出来ない。
そして、そのまま------。

落差は約40メートル。加速に加速がつき瞬きの間に
水面は迫ってくる。彼は両手を揃え脇で頭を抱えて
水面に打ち付けられる抵抗を少なくした。


墜ちた場所が崖であったにも関わらず岩に叩き付けられなかったのは
幸運であった。やがて砂浜に打ち上げられた
彼は山に向かって力強く歩き出していく。

そして、夜も昼も彼は探し続けている。
落下地点から半径一キロメートルと考えて見付けられない為
三キロに広げた。それでもまだ見付からない。 いつの頃からだろう
自分のすることに疑いを持つようになったのは。

自分にしか見付からない訳がない。この土地の人間に助けられていたら…?
そう考えて山という山を、たださすらい続けるようになった。
捜して見付けて…どうだって云うんだ。
もう自分たちには帰る場所がないのに。

彼は頭の中で船から見た地球の姿を思い出していた。
「あの星は、どこへ行ったんだ…?」

それでも彼を見付け出したら何かが変わるような気がして、
もう何年も、この山を。
どこまでも続くこの森を…。

彼は幼いアツシを探し続けてる。


終。



=============================
後書きという名のネタばれ〜。

ほんとはこういうのって本編が終ってから
アップすべきでした。。。^^;;;
なんのこっちゃら分からんっすね〜。
ここに出てきた小川敦史くんは
本編のアツシたちとは全く別人です〜。
ロボットのマコトが本編のアツシ(仮名)ですと言えば
なんとなく分かっていただけるでしょうか。。。
そうなんです〜。ロボットなんです〜〜。
時代劇だと思ってたらSFかいっと、突っ込まれそうだ〜わははは。
やっとここまで書くことが出来てとても嬉しいです〜。
わたくしにとっても初オリジナル小説。。。
このまま、順調に終ってくれい。。。

ていうか、お兄ちゃん、どんなに仲良かったんかシランが
行方不明の弟の名前を息子につけるなよ〜
(と、自分に突っ込んでみるわたくし。。。)

おつき合いいただいてありがとうございます〜。


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