瞳に映る太陽。

2005-07-11up



「一人として欠ける事なく皆の顔をまた見る事が出来て嬉しく思う。」
フランソワ達にもみくちゃにされた隊長は、乱れた髪に手をやりながら
横列に並び直したオレらの顔を見ながら云った。
「早速だが休んでいるヒマは無いぞ。
 第1班については議事堂警備に戻るかどうかも
 検討し直される事だろう、とりあえず今日は休め」
ザッと軍靴を鳴らして敬礼するオレ達に隊長も同じ格好で応えた。
解散してオレ達は平営へと、隊長は司令官室へと半歩下がって
着いて行くアンドレに何かを指示して頷いている。
「うわっ」
一瞬で視界が真っ暗になる。
2人がかりで羽交い締めにしてきたジャンとラサールに
後ろ足で蹴りをいれながら器用にすり抜けて宿舎へと向かった。

宿舎に帰ってからは、顔を洗い鬚を剃って
用意されていたわずかな食事を取り、食堂に他の連中を残して
早々と部屋に戻り久々のベッドに横たわった。
静かになると、オレはと云えばアベイに押し寄せて来た
地響きともつかない行群の声が怒濤のように
自分の胸に、もう一度押し寄せてきて
まだ耳の奥で響いている歓声に覚えた感動で
何も考えられず、ただベッドの天井を眺めていた。

助かったという実感が湧かなかった。
太陽を背にしたあの人の顔を見るまでは。

入眠時の事も分からないほどいつの間にか寝てしまい
オレが次に目が覚めた時にはすっかり夜になっていた。
他の連中もいつの間にか戻ってきていて同じ部屋の中でベッドに
横になって大きな寝息をたてている。
泥のように眠ったせいか頭はすっきりとしていて
妙に目が冴えてしまっていた。ベッドの下から
隠していた酒瓶を取り出し蓋をあけてひとくち流し込むと
それを持ってオレは宿舎を抜け出した。

昏い薄曇りの空に星が見え隠れして、高い塀と格子を飛び越えて
遠く街に続いて行くように見えた。
オレは助走を付けて塀に駈け登り反対側に降りて兵舎を振り返る。
誰にも気付かれていないのを確認したあと、街へと走り出した。

その店のドアを開くと同時に店の中の客達が一斉に拍手し出した。
口笛を吹きながら皆口々に入り口の脇に居る女に賛辞の声をあげる。
オレが入り口で固まったのは、店の客のほとんどがこっちを向いていたから
ではなくてすぐ脇に立っているのがあのナタリ−だったからだ。
「よう…」
意外に思って声をかけるとナタリーはオレに気付いて手を振り
オレはそんな彼女に笑いかけながら諸手を軽くあげて応えた。
店主のドニが打楽器を携えていたのでパフォ−マンスが始まるのかと
思ったら唄いだしたのは、隣人のナタリーだった。

「今より後に僕はたぶん
     生涯誰とも出会えないだろう

   期待を裏切って悪いけど僕は大丈夫さ

 だけど今は優しい言葉をかけないで
       黙って見送る僕をゆるして

    君の眼に僕が哀しげに映るのは
    最後まで運命を信じていたからで

   僕の瞳に映る太陽はこれからも
      君だけなのだと判ったからさ」

片手で余るくらいの筒に白い皮を貼った店主の打楽器が
最後の音の余韻に震えた。唄が終ると客たちに混じってオレも賞賛の拍手を送る。
2双の打楽器をカウンターの隅に置いた店主にナタリーはワインを頼むのに
「ビンで」
とオレが付け加えると、彼女は可笑しそうに髪をかきあげて
カウンターに肘をついた。
「この前は世話になったな」
最初の一杯を空にしてオレはナタリーにお袋の事で礼を云った。
「…遅くなっちゃった、そろそろ帰らなきゃ」
だけど、彼女はそれには応えなかった。
「送っていくワ…ゆっくり飲めよ」
「アランはどうして?宿舎じゃないの今夜は」
「はは。お前ぇを送ったら帰るさ」
「何か好い事あったの?」「そうだな…命拾いした、今日」
云うとナタリーは真面目な顔で小さい口をヘの字に曲げた。
「それって…そうなの?釈放されたあの12人の中に居たわけ?
 あきれたっ。大丈夫なの?」「いいんじゃねえ?」
ナタリーの背中を叩いてニカっと笑いかける。
背中の痛さに顔を歪ませながら
ナタリーは眼が無くなるほど細めて抗議した。
「もう、痛い」
ナタリーが飲み干したグラスにワインを注いで
「失礼しやした。もう、一杯」と、慇懃にナタリーに差し出すと
一転また屈託のない笑顔をオレに向けた。
「じゃ、乾杯。おかえりなさい。」「おお。」
唄う声と話す声がナタリーはまるっきり違う。だけど
唄声には言葉の感情が入り込んでいて聴く者の心に直に響いてくる。
−−それは、唄が上手いと言う事か。

「しかし別れ際まで、君は僕の太陽とか
 云っちまうのか、大変だな。
 お前ぇの唄も。」ナタリーが飲んでる最中に
云ったのでオレは危うく吹き出しかけた彼女に睨まれた。
すぐにシニカルに笑いながらオレの注いだワインに口をつける。
「誰かの太陽のようになれたらいいのにね…」
彼女のセリフでふとあの人の顔がよぎる。
「よかった…ほんとに。」オレが釈放された事を云ってるのだと
気付くのに数瞬を要した。流し込んだワインのせいで
胸の動悸が一気に早まって酔いも頭も回ってくる。
「お前ぇが妹ならよかったのに」「え…?」
驚いた顔でこっちを向いたナタリ−の顔がふいにぼやけた。
「アラン!!」
これくらいで酔っちまうのか、やっぱり疲れてるせいかな。


「あたしを送ってくれるんじゃなかったの?
 この貸しは大きいからね。」
店でひっくり返ったオレに店主が驚いてたらふく水を飲ませた。
ただの水に溺れるかと思うくらい飲ませられた後は
その場で休んで…もう帰るしかない。ナタリーが店主に掛け合って
こうしてオレは彼女が御した店の荷車に寝かせられて
薄曇りの空を眺めながら平営へと帰途に着いていた。「悪い…」
云った後で車輪が小石に乗り上げて響く後頭部にオレは半身を起こした。
「あたしが妹ならよかったって、どういう意味?」
「………」愛せない理由になるのに。或いは妹のようになら愛せるのに?
だめだ、何を云っても絶対カドが立つ。
「オレ、そんな事云ったか?」
「云った。莫迦っ」だけどナタリーには見透かされているようで
正直な罵倒に思わず苦笑した。

薄曇りの空はいつの間にか晴れ渡って降るような星空が広がっていた。
明日はまたオレの太陽を見る事だろう。
恐らくは
瞼の裏に焼き付いた残像まで眩しいに違いなかった。


FIN

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某アーティストの英詩曲を勝手に和訳しちゃいました〜。
これってバレたら怒られるのかしら、、、。
雲行きが怪しくなったらさっさと引っ込めます。(笑)
アラン話のはずが、なんだかナタリーが前に出過ぎちゃいました。
(ひゃー)

*参考までに夜明け5月です。


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