2003.01.05up
イラストる・ルンさま

懲りないドリーマー




コンコンコンッ。


特徴のあるノックの音に、身体中から熱が引いていった。

まさか、、、とは、思いつつもドアを開ける。

この世でいちばん憎くていちばん愛しかった男が立っていた。

口元だけをゆがめて笑っている、調子のいい時だけ

心優しい人間に形を変える男。

なんで一時でもこんな男を好きになったんだろう。


「どなたかしら?」


わざと、冷たく答えてすぐに身を翻した。

男は辺りを見渡して、あたし以外誰も居ないのを

確かめてから部屋の中に入って来て

ずうずうしくも人のベッドに腰を下ろした。


「ちょっと。ここはあたしの家よ?
 云っておくけどあんたに渡すお金なんてないからっ。」

「ナタリー、お前には悪い事したと思ってるよ。お前が必要なんだ。」

「あたしの稼ぎが必要なんでしょ?」


畳み掛けるように云うと

男は少し沈黙した後、ほほ笑みながら云った。


「そうだぜぇ。また、酒場でお前が唄ってよお、、、」

「それであんたはポン引きでまた稼ぐってわけね。
  まさか、客を連れて来たんじゃないでしょうね?!」


甦って来る嫌な記憶に、目眩さえ覚えた瞬間

急に手を引かれてベッドに組み伏せられた。


「やめてよ!!」


叫んだ途端に左頬を叩かれた。

「ナタリー、、、お前が急に一緒に死のうなんて云わなければ
 オレだって、お前から離れたりするもんか。」

「死にたくも、なるわよ、、、。あんたなんか、、、!」

「うおお!!」


男の股間を蹴りあげて男が怯んだすきにあたしは

部屋の壁の方に走った、、、

瞬間、足をすくわれ床にどおっと倒れこんでしまった。


「いやあ!!」


男があたしの身体の上に跨いで両手の自由を奪う。

「まだ、可愛い声が出せるじゃねえか。ナタリー。
 一緒に死のうかってくらい惚れた男が帰ってきたんだぜ?」


床に響く足音があたしを強気にさせた。


「あんたごときを殺るのに、あたしがなんで手を汚さないといけないの?」

「なんだと、、、??」


急にドアが荒々しい音をたてて、屈強な男達が3人入って来た。

ポン引き男の借金取りと用心棒たちだった。

「おお、見つけたぜ。」「女を張ったのが、正解だったな」

「ナ、、ナ、、」


あたしの名前を呼ぼうとして言葉もないくらい

驚いているかつての恋人にあたしは言い放った。

「ずううっと、隣の部屋であんたをお待ちかねだったのよ。
 あたしの手が汚れない意味が判った?」



「よお。邪魔したな。ねえさん」

情けない声でわめくポン引き男を両脇から抱えて

2人の用心棒が帰っていくと、あとには髪も顔も

ぐちゃぐちゃのあたしと若い用心棒だけが残った。

「泣くなよ。」 「驚いただけよ、、。」

これで終った、、、、。

本当に金輪際、あの男とはこれで切れる。

まだひりひりする左頬を長い黒髪で隠しながら

涙が溢れるのを止める事が出来なかった。

「さっき、合図出来なかったのにすぐに来たからびっくりしたの、、、」

本当は壁を叩いて合図を送るように云われていたのに

きっかけが掴めずにとうとう合図する事は出来なかったのだ。

だけど、借金取りの男達はすぐに部屋に入って来たので

不思議に思っていた。

「君の事は、ずっと見てた。」

若い用心棒が静かに云った。そして似合わない笑顔をつくった。

「、、、、ありがとう。」

莫迦だなあ、あたし。

また、夢を見てしまいそうよ、、、。

優しい男の笑顔に弱いのは一生治らないのかな、、。



FIN




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その後のナタリ−です、、、というか、
時間的にいうと「部屋隅」と「夜明け」の
間くらいです〜。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
torish











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